筆者がXに投稿した一文だ。半分は冗談だが、半分は本気である。
筆者はロードスターRFから、2005年式のアウディA3に乗り換えた。RFには車載通信機が積まれていて、クルマ自体がインターネットにつながっていた。一方のA3には、通信機はもちろん、Bluetoothも純正ナビもない。
乗り換えた当初は、不便になったと感じた。しかし最近、考えが変わりつつある。インターネットにつながらないクルマは、離れた場所からのサイバー攻撃を受けようがない。AIによって攻撃の手間が下がりつつある今、これは古いクルマの思わぬ強みではないか。
この機会に古いクルマの強みと弱点を整理しておく。
クルマは「走るコンピューター」になった

最近のクルマには、通信機が当たり前のように積まれている。
スマホのアプリから駐車した場所を調べたり、エンジンを遠隔で始動したりできる。ソフトウェアの更新も、販売店に行かなくても通信で届く。事故を起こせば、クルマが自動で助けを呼んでくれる。
便利になったのは間違いない。ただ、通信でつながるということは、インターネット側からクルマに届く入口があるということでもある。
つながるクルマへのサイバー攻撃は現実に起きている
「クルマがハッキングされる」と聞くと映画の話のようだが、実際に起きている。
140万台のリコールにつながったジープの事例
2015年、アメリカのセキュリティ研究者2人が、ジープ・チェロキーを通信回線経由で遠隔操作するデモを行った。原因はナビやオーディオを担うシステムのソフトウェアの弱点で、ブレーキやエンジンにまで影響が及ぶおそれがあった。メーカーは約140万台のリコールを行い、ソフトウェアを修正した。なお、研究者による実証以外に、事故や負傷の報告はなかったとされる。
出典:クライスラーが遠隔操作の恐れで140万台リコール 米(CNN.co.jp)
ナンバープレートだけで操作できたキアの事例
2024年には、韓国のキアで、販売店向けのウェブシステムに欠陥が見つかった。研究者の報告によると、ナンバープレートの情報だけで、一部の車両の解錠やエンジン始動、位置の取得などを約30秒で遠隔操作できる状態だったという。ブレーキやハンドルには届かず、問題は公表前に修正され、悪用された形跡もないとされている。
出典:Millions of Kia Cars Were Vulnerable to Remote Hacking: Researchers(SecurityWeek)
この例で注目したいのは、クルマそのものではなく、メーカー側のシステムに弱点があったという点だ。しかも、コネクテッドサービスを契約していない車両も影響を受けたと報じられている。クルマがつながっている以上、守るべき範囲はクルマの外まで広がる。
国も対策を義務づけた
こうした状況を受けて、国連ではクルマのサイバーセキュリティとソフトウェア更新に関する国際基準が定められた。日本でも国土交通省が保安基準に取り入れ、2022年7月から段階的に適用を始めている。2026年5月には、無線でソフトウェアを更新しない継続生産車にも適用され、導入が一巡した。今、新車として売られているクルマは、サイバー攻撃への備えを求められているわけだ。
出典:自動運転技術に関する国際基準等を導入します(国土交通省)/国交省、自動運行装置の要件やソフトウェアアップデートなど新たな国際基準導入(Car Watch)
AIがサイバー攻撃の敷居を下げている
ここに新しい要素が加わった。AIだ。
AIを使えば、プログラムの弱点を探す作業や、攻撃の準備にかかる手間が大きく減る。これまで専門家にしかできなかったことが、より少ない手間でできるようになりつつある。
攻撃する側の手間が減れば、狙われる対象は広がる。守る側もAIを使って対策を強めているが、攻撃と防御の競争が続く以上、「そもそも入口がない」ことの価値は相対的に上がっていく。
筆者のクルマの「つながり度」を比べてみた

筆者が以前乗っていたロードスターRFは、8.8インチのセンターディスプレイを備え、車載通信機が搭載されていた。スマホをつながなくても、クルマ自体がインターネットにつながっている。
マツダのコネクティッドサービスでは、事故や急病のときの緊急通報、駐車位置の確認、ソフトウェアの更新、リコールの通知などが受けられる。ソフトウェアの更新とリコール通知は、初度登録から10年間は無料で提供される。
出典:マツダ ロードスター/ロードスターRF カタログ(2026年6月現在)
一方、現在のアウディA3はどうか。
| ロードスターRF | アウディA3(2005年式) | |
|---|---|---|
| 車載通信機 | あり | なし |
| スマホ連携 | Apple CarPlayなど | なし |
| Bluetooth | あり | なし |
| ナビ | オンラインナビ対応 | なし |
A3には、インターネットにつながる部品が一つもない。インターネットの側から見れば、存在しないも同然のクルマである。
つながらないクルマが持つレジリエンス

レジリエンスとは、困ったことが起きたときの強さ、しぶとさのことだ。つながらないクルマには、つながるクルマにはない種類のしぶとさがある。
離れた場所から入り込む入口がない
当たり前だが、これが一番大きい。通信機がなければ、地球の裏側から通信回線を通ってクルマに入り込むことはできない。どれだけAIが進歩しても、存在しない入口は狙えない。
サービスの終わりに左右されない
コネクティッドサービスは、メーカーのサーバーと通信回線があって初めて成り立つ。RFのカタログにも、サービス内容は予告なく変更・中止される場合があること、車載通信機の内部電池には寿命があることが書かれている。
実際、携帯電話の3G回線の終了にともない、つながる機能が使えなくなった例がある。レクサスは、KDDIの3Gサービス終了を受けて、2016年以前に生産した一部車両のコネクティッドサービス「G-Link」を2022年3月31日で終了した。止まった機能には、緊急通報や盗難対策のサービスも含まれていた。一方で、通信を使わないナビやオーディオは、その後も使い続けられるという。
出典:レクサス、コネクティッドサービス「G-Link」を一部車両で提供終了へ(Car Watch)
つながる機能は、サービスが終われば消える。つながらない機能は、クルマが動く限り残る。
20年前の機械は、20年後も同じように動く
筆者のA3は、2005年に作られたときと同じ仕組みで、今日も同じように走っている。サーバーの都合も、通信規格の変更も関係ない。機械として完結していることは、長く乗るうえでの安心材料にもなる。
A3を実際に所有して感じた耐久性については、別の記事にまとめている。

ただし、古いクルマにも弱点はある

ここまで古いクルマの強みを書いてきたが、公平のために弱点も書いておく。
車に直接触れられると弱い
つながらないクルマが強いのは、あくまで「離れた場所からの攻撃」に対してだ。車に直接触れられる状況では、新旧を問わず盗難のリスクはある。
盗まれても位置を追えない
つながるクルマなら、盗まれたときに位置を確認できる可能性がある。A3にはその手段がない。
事故のときに自動で助けを呼べない
RFには、事故や急病のときに自動で通報してくれる仕組みがあった。A3では、自分で電話をかけるしかない。意識を失うような事故では、この差は大きい。
ソフトウェアの弱点が直らない
ジープもキアも、弱点が見つかったあとにメーカーが修正している。つながるクルマは、入口がある代わりに、メーカーがふさぎ続けてくれる。古いクルマには入口がない代わりに、その仕組みもない。
最新の安全装備がない
衝突被害軽減ブレーキのような、事故そのものを防ぐ装備も、20年前のクルマにはない。サイバー攻撃より、こちらの方が日常的には大きな差かもしれない。
無線の入口がまったくないわけではない
厳密には、筆者のA3にもリモコンキーという無線の入口が一つだけある。ただし、ボタンを押したときだけ電波を出す方式で、スマートキーのように常に電波をやりとりしているわけではない。

自分で付けた機器が入口になることもある
見落としがちなのが、後から付けた機器だ。
筆者は故障診断のためにAP200という診断機を使っている。クルマの診断用の差し込み口に挿し、スマホとBluetoothでつないで使うものだ。便利だが、挿しっぱなしにしておけば、せっかく「つながらない」クルマに自分で入口を作ることになる。
そのため筆者は、使うときだけ挿し、使い終わったら抜くようにしている。

古いクルマの弱点を補うには
正直に書くと、筆者は今のところ、盗難対策を何もしていない。この記事を書きながら、検討を始めたところだ。
考えている対策は次のとおりだ。
物理的な盗難対策
ハンドルロックのように、目に見える対策は「このクルマは手間がかかる」と思わせる効果がある。
後付けのGPS
クルマとは別の機器なので、クルマを操作される心配はない。盗まれたときに位置を追う手段になる。
車両保険の盗難補償を確認する
最後の備えは保険だ。古いクルマは車両保険を付けていないことも多いが、盗難が補償されるかどうか、一度確認しておきたい。
【PR】無料の自動車保険一括見積もりサービス(インズウェブ)後付けの機器は使うときだけつなぐ
診断機やドライブレコーダーなど、通信機能を持つ機器を付けている場合は、つなぎっぱなしにしないことも対策になる。
まとめ

インターネットにつながらない古いクルマは、離れた場所からのサイバー攻撃を受けようがない。AIによって攻撃の手間が下がりつつある今、これは見直されてよい強みだ。
一方で、つながるクルマには、緊急通報やソフトウェアの更新といった、つながるからこその安心もある。どちらが正しいという話ではない。
便利さと引き換えに入口を持つのか、不便でも入口を持たないのか。つながらないことは、遅れではなく、一つの選択肢である。
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