NDロードスターにLSDは必要?デフの仕組みと性能への影響

LSDの象徴的な図 カー用品
記事内に広告が含まれています。

NDロードスターを購入するとき、多くの人が悩むのがLSD(リミテッド・スリップ・デフ)の有無だろう。
「LSDって何?」「どのグレードに付いているの?」と疑問を持つ方も多いと思う。
この記事では、LSDの基本知識から有無による走りの違い、どんな人におすすめかまで解説する。

LSD(リミテッド・スリップ・デフ)とは?

LSDとは Limited Slip Differential gear(リミテッド・スリップ・デファレンシャル・ギア)の略である。
さらに「デファレンシャル・ギア」は通常「デフ」と略される。

LSDの語源・意味

つまり、左右タイヤのスリップ(回転差)をリミット(制限)することにより、クルマを前に進める力(トラクション性能)を向上させるデフである。

デフとは?

そもそもデフとは左右のタイヤの回転差を吸収する装置である。

なぜデフが必要かというと、次の図のように左右のタイヤで旋回半径が異なるからだ。
旋回半径が異なると、左右それぞれのタイヤが進む距離が異なる

左右の旋回半径が異なることを示す図
クルマが右に曲がるときの図

この距離の差を駆動力を伝えながら吸収する装置がデフである。

そして一般的なデフはオープン・デフと呼ばれるタイプである。

オープン・デフはエンジンの駆動力を確実に伝えながらも、左右タイヤの回転差を滑らかに吸収し、ドライバーに違和感を感じさせないスムーズなコーナリングを可能とする。
オープン・デフの構造は次のようになっている。

オープンデフの分解図
オープン・デフの分解図

これを水平面で切った断面は次のようなイメージである。

オープンデフの断面図

そしてオープン・デフは次のように作動する。
クルマがコーナーに差し掛かるとピニオンギアサイドギアが回転する。

オープンデフの作動原理の図

これだけだと、左右のタイヤがお互い違う方向に回転するだけに見える。
しかし、実際には次のようにデフケース全体が回転しているため、結果として外側タイヤが多く回転し、左右のタイヤの回転差を上手く吸収できるのである。

しかし、このように上手く考えられた構造のオープン・デフにも欠点がある。

左右どちらか一方のタイヤが

  • 滑りやすい路面に乗る
  • 浮く

などの状態になりグリップを失うと、このグリップを失ったタイヤにばかり駆動力が流れ、クルマ全体が前に進む力(トラクション)が失われるのだ。

具体例では、FR(フロントエンジン・リアドライブ)車の後輪(駆動輪)の片側のタイヤがツルツルな氷の上に乗ると、たとえもう一方のタイヤがアスファルトの上に乗っていたとしても、アクセルを踏んでもクルマは前に進まない。

LSDの仕組み(構造)

そこで、片輪のグリップを失った状態でも確実にトラクションを伝えるように考案されたデフがLSD(リミテッド・スリップ・デフ)である。

LSDの仕組みは次のようなものだ。
(ここでは機械式LSDと言われるタイプのLSDを例に作動概念を説明する。LSDの構造タイプは他にいくつか存在する。)

オープンデフに対して左右タイヤの回転差を制限する(差動制限という)ための多板クラッチが追加されている。

LSDの仕組みの説明図

そしてエンジンの駆動力を感知すると、この多板クラッチがサイドギアの回転をロックし、差動制限する。(このタイプをトルク感応型という)

LSDの仕組みの説明図


このような仕組みにより、LSDは片輪が空転しやすい状況でも、もう一方のタイヤに駆動力を伝えてトラクションを維持するのである。

LSDの仕組みの説明図

NDロードスターに純正装着されるLSDは機械式LSDではなく、ND1までは「スーパーLSD」、ND2からは「アシンメトリックLSD」と呼ばれるものであり内部構造が異なるが、LSDがもたらす効果は本記事で説明するものと同様である。

ソフトトップでは次のグレードにLSDが標準装備されている。

  • S Special PackageのMT車
  • S Lether PackageのMT車
  • RS

ハードトップ(RF)では次のグレードにLSDが標準装備されている。

  • SグレードのMT車
  • VSグレードのMT車
  • RS

LSD付きの特徴

  • コーナー立ち上がりでのトラクション性能が向上し、パワーをかけても安定して加速
  • コーナー進入時、リアがしっかり踏ん張り安定性が向上する
  • パワースライドやドリフト気味のコントロールがしやすい

加速時のトラクション性能と安定性の向上

上記で説明した通り、LSDは片輪のグリップが失われた状況においても、接地しているもう一方のタイヤに駆動力を伝えることができる。
これにより、旋回脱出時のトラクション性能が向上し、滑りやすい路面においてもしっかりと加速することができる。

LSDの仕組みの説明図

また車両の安定性も向上する。
なぜなら、差動制限力は下図ように車両に復元モーメントを与えるからだ。

LSDの差動制限力によるヨー減衰の図

このように、クルマが曲がろうとするのと逆の力(復元モーメント=クルマを真っ直ぐにしようとする力)が発生し、車両を安定させる力が働くのである。専門的に言えば、クルマのヨーレートを減らす方向の力であるため「ヨー減衰作用がある」という。

別の言い方をすれば、基本的にはLSDを装着するとクルマは曲がりにくくなる。例えば、LSDの効きが強いクルマが交差点でデフをバキバキ言わせながら曲がりにくそうに通過していくのを見たことがあるだろうか。あれはLSDの差動制限力により強い復元モーメントが発生しているため、クルマがとても曲がりにくい状態になっているのである。

減速時の安定性向上

LSDのメリットは加速時だけではない。ブレーキングでコーナーに進入していくような減速時にも効果を発揮する

先ほど紹介した図を思い出してほしい。

LSDの差動制限力によるヨー減衰の図

この復元モーメントはLSDの差動制限力によるものなので、加速時だけでなく減速時にも作用する。
したがって、LSDによりコーナー進入時の安定性が向上する。

特に、ウェット路面や雪道の走行機会が多い人や、ワインディングやサーキットでのスポーツ走行を積極的に楽しむ人には大きなメリットがある。

商品改良ロードスター(ND2)に採用されたアシンメトリックLSDとは

2023年に発表された商品改良ロードスター(ND2)では、加速時よりも減速時の差動制限力を強めた「逆1.5WAY」ともいうべき構造の「アシンメトリックLSD」が採用された。

LSDはその内部構造を工夫することにより、「加速時の差動制限力」と「減速時の差動制限力」を分けて設定することができる。
そして、その設定の仕方により

  • 加速時のみ差動制限力が働く →1WAY
  • 加速時減速時の両方で同じ差動制限力が働く →2WAY
  • 加速時に対して減速時の差動制限力が弱い →1.5WAY

のように分類される。

しかし、ND2のアシンメトリックLSDは減速時の差動制限力のほうが強く設定されているため「逆1.5WAY」と表現した。

つまり、アシンメトリックLSDはコーナー進入時のリアの安定性に重点を置いたLSDと捉えることができる。

実際に、筆者は「商品改良前のLSD付きロードスター」と「商品改良後(ND2)のアシンメトリックLSDの付きロードスター」を乗り比べたことがあるが、ND2のほうがコーナー進入時の安定性が高く安心感があった。
特に、雪道でその傾向が顕著であった。雪道はただでさえクルマが不安定になりやすい道路環境であるが、アシンメトリックLSDのお陰でクルマがブレることなく安定してコーナーに進入していけるのである。雪道の走行機会が多いロードスターユーザーにアシンメトリックLSDはおすすめである。

LSDなし(オープン・デフ仕様)の特徴

ナチュラルな旋回感覚

オープン・デフ仕様の魅力は、とにかくそのナチュラルな旋回感覚に尽きる。

メリットの多いLSDであるが、デメリットもある。今までに説明してきたが、LSDによる差動制限力はクルマに復元モーメントを与え安定性を向上させるものの、別の言い方をすれば曲がりにくくなるのである。

しかし、オープン・デフにはほとんど差動制限力が働かないため、この復元モーメントがクルマに作用しない。そのためドライバーのステアリング操作により生じた旋回モーメントが邪魔されることなく、自然に無理なくクルマが曲がっていくような車両挙動となる。

したがって、片輪が浮き気味になるほど左右の荷重移動が激しいスポーツ走行や、雪道のような滑りやすい路面を走行する機会がないドライバーにとってはトラクション性能向上ニーズがあまり無く、LSDのメリットを感じる場面は少ない。

そのような「街乗りメイン」「ワインディングも穏やかにドライブしたい」というドライバーには、LSD付きよりもむしろオープン・デフ仕様を筆者はおすすめしたい

筆者はオープン・デフ仕様のロードスターに何度か試乗しているが、乗るたびにその自然な旋回感覚に魅了され、「これはこれで良いし、むしろ初代NA型から続くライト・ウェイト・オープン・スポーツたるロードスター本来のコンセプトに忠実な乗り味かもしれない」と感じるのだ。

LSDの有無による運転感覚の違い

まとめると次のような違いがある。

LSD付き

  • コーナー進入時にクルマの安定感がある。アクセルオフしブレーキングしながらコーナーに入っていく際にリアが安定し、走りに余裕が生まれる。
  • コーナー脱出時にしっかりトラクションをかけて加速していける。駆動力が無駄なく路面に伝わり、高G旋回時においても確実に立ち上がることができる。
  • ウェット路面や雪道での安定性

LSDなし(オープン・デフ仕様)

  • コーナリング時の運転感覚がナチュラル。ドライバーの何気ないステアリング操作にごくごく自然にクルマが反応し、澄んだ水のような運転感覚を味わえる。
  • 片輪が滑りやすい路面に乗ったり、高G旋回で内輪が浮き気味になると、デフの構造上トラクション性能が低下し、車が前に進まなくなる。(ドリフトや定常円旋回をするのは難しい)

こんな人にLSD付きがおすすめ

  • ワインディングでの運転を積極的に楽しみたい
  • サーキット走行やジムカーナなどのモータースポーツに興味がある
  • ウェット路面や雪道の走行機会が多い

こんな人はLSDなし(オープン・デフ仕様)でもOK

  • 街乗りや高速道路がメインで穏やかな走りをする
  • 限界性能よりもナチュラルな運転感覚を重視する
  • 軽量・低コストであることを重視する

グレード選びのポイント

NDロードスターの場合、ソフトトップでは次のグレードにLSDが標準装備されている。

  • S Special PackageのMT車
  • S Lether PackageのMT車
  • RS

ハードトップ(RF)では次のグレードにLSDが標準装備されている。

  • SグレードのMT車
  • VSグレードのMT車
  • RS

AT車はすべてのグレードでオープン・デフ仕様だ。
つまり、NDロードスターはMT車かAT車かでデフの選択肢が変わる。
LSDはMT車の上位グレードに標準装備されており、AT車には設定がない。


LSD標準装備のグレードは価格が高くなるものの、余裕ある走りを楽しむなら価格差に見合う価値がある

また、どうしても後から装着したくなった場合は社外品のLSDを取り付ける方法もある。
例えば、マツダ車専門のアフターパーツブランドとして知られているAutoExe(オートエクゼ)から発売されているLSDなら、純正でオープン・デフ仕様のグレードでもLSDに換装できる。
LSDの効きについては「ストリート仕様」と謳われているので、モータースポーツガチ勢向けではなく、LSD入門に丁度よいであろう。
(ソフトトップとRF、ATとMTなど機種ごとにLSDの品番が異なるので購入時は注意)

まとめ

LSDは日常の滑りやすい路面の走行からスポーツ走行に至るまで、幅広いシーンで真価を発揮する装備であり、走りを突き詰めたい人にとっては大きな魅力である。
一方で、街乗りが中心ならLSDなしでも十分にロードスターの楽しさを味わえる。

自分の使用シーンをイメージし、本記事で紹介したLSD有無の特徴に照らし合わせれば、後悔のないグレード選びができるだろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました