スポーツカーは一般的に硬いサスペンションが装備されており、そのために乗り心地が悪いというイメージがある。
筆者のロードスターRFは納車から約5ヶ月が経過し、走行距離はあと少しで1万キロに到達しようとしている。
これまで乗ってみた感想のうち操縦安定性やユーティリティについては何度か記事にしているが、乗り心地についてはあまり触れていなかったので、この機会に改めてロードスターRFの乗り心地にフォーカスして解説する。
ロードスターの乗り心地は良い?悪い?
結論から言うと、ロードスターRFの乗り心地は良い。
一般的にスポーツカーと聞くと、硬いサスペンションをイメージし乗り心地が悪いと思われている方が多い。しかし納車後1万キロを走行した体験から、ロードスターRFは走行性能だけでなく乗り心地にも配慮されているスポーツカーと言える。
乗り心地の種類
まず、一言に乗り心地といっても車両の挙動によっていくつかの種類に分けることができる。
①フワフワ領域
路面の波打つ起伏に沿って車体がフワフワ動く挙動であり、比較的ゆっくりした動きである。周波数でいうとおおよそ10Hz未満の領域。
これに車両の前後のピッチングの動きが重なると酔いやすい。たとえフワフワ動くにしても車体が地面と平行に上下するバウンス挙動だと比較的酔いにくいといえる。
サスペンションのダンパーにより、このようなフワフワした車両挙動がいつまでも続かないようにしっかり減衰させることが重要である。
また、ドイツ車はよく「フラット感がある」と表現されることがあるが、それはこのフワフワ領域の挙動コントロールの話である。
ロードスターRFはどうか
ショートホイールベースかつ重量物を車体中心に寄せたレイアウトゆえピッチング方向の慣性モーメントが小さいため、路面の起伏によるピッチングは起きやすい。しかしダンパーの減衰力がしっかり効いているため、いつまでもフワフワとした動きが続くことはなくすぐに収束する。路面の形状に素直に沿った動きをするので酔いにくい挙動と感じる。これは街乗りから高速道路まで同様だ。
②ブルブル領域
路面の起伏に起因し車体やシートがブルブルと振動する挙動である。先程のフワフワ領域よりも周波数が高くおおむね10Hz以上の領域。
ブルブルとした振動を感じる原因はいくつかあるが、主に次のようなものが挙げられる。
- サスペンションのバネの振動(ダンパーで減衰し切れていない)
- エンジンやトランスミッションといったパワートレイン系部品の振動。
- ボディやボンネット、ドアの振動
特にエンジンやトランスミッションといったパワートレイン系の部品は重量があるうえに、車体に対してゴム製のマウント(エンジンマウントなど)を介して取り付けられている。したがってこれらの部品は路面の起伏を受けてブルブルと振動しやすく、この振動がシートを介して乗員に伝わって不快な振動となることがある。
ロードスターRFはどうか
起伏のある道路を走るとこのブルブル振動を感じる場面がある。その際にシフトレバーを見ると同様にブルっと振動している。つまり、エンジンとトランスミッションが振動しているということである。
ただ、その振動は減衰感のあるマイルドなものであり、角が立ったような痛い突き上げは一切なく上手くチューニングされている。あえて意識的にブルブル振動に注目すれば気づく程度のものであり、素直に乗っている分にはマイルドさや減衰感をよく感じるため、「乗り心地が良い」という印象だ。
③段差乗り上げ
段差乗り上げにはさらに2種類の観点がある。
- 段差乗り上げ時の感触は「丸い」か「キツい」か
- 段差乗り上げ後に不快なブルブルした余韻が残らないか
段差乗り上げとは、具体的には道路上のマンホールや橋の継ぎ目、コンビニの駐車場に入る際の歩道の段差を通過するシーンである。
ロードスターRFはどうか
段差乗り上げ時の感触は丸い。マイルドで優しい感じである。そして段差乗り上げ後に不快なブルブルした余韻が残ることもなく一発で振動が収束する感じで良く出来ている。このような挙動により、乗り心地が良く感じる。
また、以前紹介した方法でボディ剛性アップを実施すると、段差乗り上げ時の収束性がより一層向上する。
ロードスターRFの快適な乗り心地の理由
最新のサスペンション技術
ロードスターRFには最新のサスペンション技術が採用されている。特に注目すべきは、フロントにダブルウィッシュボーン式サスペンション、リアにマルチリンク式サスペンションを搭載している点である。このサスペンション形式により、路面の凹凸をしっかりと吸収し快適な乗り心地を実現している。
(画像:マツダ(株)ニュースリリース)
これらのサスペンション形式は、軽自動車や一般的なコンパクトカーが採用するストラット式やトーションビーム式に対して、コストが掛かるものの路面追従性に優れたサスペンション形式である。
バランスの取れた重量配分
ロードスターRFは、軽量かつバランスの取れた設計が特徴だ。エンジンやトランスミッションをできるだけ後方に搭載することで重量物を車体中心に寄せ、約50:50の前後重量配分を実現している。これが癖のない自然な車両挙動を生み出している。
(画像:マツダ(株)ニュースリリース)
シートのデザイン
ND型ロードスターには、従来のウレタンパッドや金属バネを特殊な弾性線維で編んだネットに置き換えたネットシートが採用されている。
マツダ技報によるとこのネットシートの特徴について次のように説明されている。
ネット材はクッション性,振動減衰性の機能を持ち,金属ばねと比較して面支持による体圧分散性の効果がある。また,ネットのハンモック効果によりネットが身体に追従し包み込むように支えるため,ホールド性が向上する。更に,ネット材自体の振動減衰性が高いため乗り心地が向上するといった性能向上効果が期待できる
マツダ技報No.32 新型ロードスターのネットシート開発
また、従来のシートに比べ10%の軽量化と最大30mmの薄肉化を実現しているとのことだ。
ユーザーの声と実際のレビュー
実際のユーザーの声はどうか。最大級の自動車SNSであるみんカラのユーザーレビューをいくつか確認すると、おおむね乗り心地の評判は良いようだ。
満足している点
乗り心地が思いのほかよく、それでいてしっかりスポーツカーです。幌車と比べると挙動に落ち着きがあってGTカーといっても良い印象でした。
(後略)
クルマレビュー 大人のスポーツカー!いやGT?欲しい…
満足している点
満足している点大人が乗れる内外装デザイン、手の届く価格、車体サイズ、日本の下道で充分な加速性能、大変良好なシフトフィール、省燃費、壊れにくい(らしい)、維持費の安さ、社外品が全体的に安価(86より安め)、比較的使えるトランク、純正サスの乗り心地の良さ、高級感ある塗装色
クルマレビュー 所有できる環境なら持つべき車
満足している点
やっぱりスタイルですね。どこの方向から見てもカッコいいし、買う前は乗ってる人が羨ましかった。思ったより乗り心地が良い。
クルマレビュー 扱い易い
乗り心地をさらに向上させるためのヒント
タイヤ
まず基本として空気圧を適切に管理することが重要だ。空気圧は気温によって変化するし自然に低下する。1ヶ月に1度はチェックするようにしたい。また、空気圧の計測は走行後に時間をおいた冷間時(タイヤが冷えているとき)に行う。メーカー指定の空気圧は冷間時のものだからだ。
なお、ND型ロードスターの指定空気圧は16インチ・17インチ共に200kPaである。(出典:ロードスター電子取扱説明書)
空気圧を高め(220kPa程度)に設定してみると、段差乗り上げ時の角はややキツくなるが収束性も向上する印象で人によっては「スッキリした乗り味」と感じるかもしれない。
また、タイヤを変えると乗り味が大きく変わる。数多くあるタイヤの中でもミシュランタイヤはトータルパフォーマンスに注力しており乗り心地・操縦安定性・ウェット性能を高次元で両立している。以前乗っていたRX-8にも履かせたことがあるが非常に良いタイヤであった。
サスペンションの調整
もし減衰力調整式の車高調が備わっている場合、減衰力の調整は乗り心地を向上させるための有効な方法の一つだ。例えば、ダンパーの減衰力を柔らかく設定することで、路面の凹凸をより効果的に吸収し、快適な乗り心地を実現できる可能性がある。一方だけ柔らかくするようなことは避け、前後バランスを取ることが重要である。
また、車高を適切に調整することで、走行時の安定性と快適性を向上させることができる。あまりに車高が低い場合はサスペンションのストロークが取れず乗り心地が悪くなる事が多いので、乗り心地を重視する場合は車高を下げすぎないほうが良いだろう。
1G締め
サスペンションの交換時に、車両をジャッキアップして地面から浮かせた状態でサスペンションアームのブッシュを締めていないだろうか。このようにしてしまうと、地面に設置した状態(1Gの重力が車両に掛かった状態)のときにブッシュをこじることになりサスペンションがスムーズに動くことが出来ず乗り心地が悪くなる。(ロードホールディング性能も落ちる。)
まとめ
スポーツカーは一般的に硬いサスペンションが装備されており、そのために乗り心地が悪いというイメージがある。しかし、ロードスターRFは乗り心地が良いスポーツカーである。
乗り心地にはいくつか種類があるが、どのシーンにおいても「角の取れたマイルドな当たり」と「ダンパーの減衰による収束性の良さ」があるために、乗り心地が良いと感じさせる。
また、ソフトトップのロードスターに試乗してみると、乗り心地はRFとおおむね同様のキャラクターであったためND型ロードスターの特徴と言えそうだ。
ロードスターRFの乗り心地が気になっている読者諸兄の参考になれば幸いである。
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